●2003年05月30日（金）

アンドレア


　私のお気に入りの少女に、アンドレアという新体操の選手がいる。
まだやっと１１才だけれどとても無口で、もくもくと訓練に励んでいる。

初めてこのチームに来たときからこの子は私になついてしまっている。
だからって特別に二人で何か私語をするような甘い雰囲気はない。
なんとなく目が合うと嬉しそうにする。
私もこの子を見るとなんだか愛情が胸に湧く。


　主任コーチのビクトリアは何かとこの子には辛く当たる。
才能もあまり評価していないような節がある。
打たない前から響くような、極めて俊敏な子供ばかりを好む人だからかな、と思っている。

私はこの子はちょっとぼんやりしたところがあるけれど、それはまだ子供だから仕方がないと思っている。
かえってそこがかわいかったりする。

骨格は素晴らしく、脚の美しさと長さ、強さは比類ない。姿がとてもいいのだ。
仕込んだら立派な選手に成長すると思うし、相当なダンサーにだってなれると思って見ている。

　このアンドレアに先ごろ、呆れるような難しいリズムの振り付けが完成した。
トマティートとミシェル・カミロのブレリアなのだ。
本当に難しい。
これに世にも難しいロープの演技をビクトリアは振付けた。
おそらくチームで一番困難な振り付けだと思われた。
できない事のほうが当然としか思えない。

それなのに聞くに堪えないような激しい叱責を連日繰り返す。

私はあきらかに選曲ミスだと確信しているし、
振り付けミスはビクトリア本人に帰すると憤懣やるかたない。

先日の大会でみんなが金銀メダルで戦勝に沸いている中、アンドレアだけが１１位だったと聞いて
胸がつまってしまった。
本人は毎日うなだれている。

クラブの秘蔵の音楽は題名も知らされないし、本人の選手にもコピーしてやらない。
毎日の訓練でさらうだけだ。

これは無理というものだ。ミシェル・カミロって難しい。
あの人は演奏のたびに調律がみんなダメになるくらいの入魂のピアニストなのだ。
それに途中で音のなくなるブレリアと来ちゃあ、イスラエルだって苦戦しそうなしろものだ。

題なんか知らせてくれなくったってフラメンコと言えばなんだって私は出典の見当はついてしまう。
禁止されていることを敢えてしてしまうと立場が悪いどころではないけれど、不憫で仕方ない。
アンドレアを物陰に呼んだ。

あの曲をコピーしてあげると囁いたら、まるで星を取ってあげようと聞こえたのかと私が驚くほどの
衝撃と喜びがこの子の顔に走った。

これだから子供はいとおしい。

ご両親にもお友達にも絶対に秘密にできる？
子供にこういう約束はできにくいものだけれど、一応はただしておく。

コピーしてやった。何回も続けて聴けるように。
注意書きのメモと一緒に、あなただったら世の中にできないことなんか何一つないと書いてやった。

日本から帰ってみるとアンドレアが留守中の大会で三位に輝いたと漏れ聞いた。
昨日、彼女に会ったら
「あなたのお陰なの！！本当に．．．」
そう言ってえもいわれぬかわいい笑顔でひっそりと笑ってみせた。

●2003年05月15日（木）

感動の夜

　ここ二日間の私のフラメンコ度といったらない。
今スペインでビカ一と評価されている5人のバイラオール達と次々会っている。
予定していなかった人とまで会って挙句に気に入ってしまったりしている。

「朝なら空いてるわよ」
「ダメだ、僕は足音の録音。」
「何時？朝の」
「9時」
．．．．．9時の前って辛過ぎ。

「午後はダメかな？」
「ダメ、私空いてないもん」
「午後と深夜の中間は？僕、そっちに行こうか？家まで行ってもいいよ」
「あ！来てくれる？嬉しい！パッキングあるし来てくれるとラク」
「なんだ、さっさと言えば良かったのにぃぃぃ」

お呼びたてしちゃ悪いかと思ってたら、どんどん来てくれる。
さすが一流の人って話早い。若いしもったいぶらない。
こんなのやりたいの、うん、いいねぇ．．．．
身を乗り出して話が弾んでしまう。
「ねえ、僕はさ、いつ君が共演申し込んでくれるかな、てずっと思っていたんだよ。」
「本当にねえ．．．．いつ申しこもうかと思いあぐねていたの。いっぱい企画はあるんだけどなかなか動けなくって。」
「ねぇ、これからいい仕事いっぱいしたいね！？」

うーーーーーん、気が合うなぁ．．．．やっぱり．．．嬉しくなってしまうな。

ほとんど全員、なぜかここニ、三日に日本から出演交渉来ているって言う。

君のオーデイション・ポスター見て案外共演を思いついてたりして！あはは．．．．て、相手は冗談みたいにして笑うけど、そんなきつい冗談やめて（汗）

でもみんな私と仕事したいって言う。
勿論、本当。
当然ですよ、長年のお付合いだもの。
誰と行くより君となら安心て言う。どのアーティストだって家族ぐるみの知り合いだ。これぞ現地の強み。

ああ----困った、この中から一人決めないといけないなんて。全部はダメ？て感じです。それぞれに持ち味が違って素晴らしい才能のきらめき。

第一話がすごく合う！これが大切。一言いうとすぐ何がやりたいかわかるみたい。
感動してしまったのは、私の振り付け案にすごくあっちが感激してくれること。
まだ口頭だけで一曲の構成がばばぱっと相互で分かってしまう。

四角い振り付けやめようね、て言うと一瞬にして何がやりたいか理解する。
揃いの足なんか絶対やめようね、ああいうバカみたいのはやめよう？うんうん。
で、１０コンパスくらいは決めても良いけど全部即興にしよう、ホントのフラメンコやろう？劇場だからってこりこりに作り物にしないで。どう？
呼吸して、感じ取って、爆発する、そういうのにしない？

「練習は？」と相手が聞いて来る。
「しない。」
．．．こんなこと言う人はいないから面白そうに眉を上げたみたいだった。

でも、一緒に稽古しない？来年まで。あなたの真似はしないけどあなたの傾向は知っておくようにする。そうしてぴたっと寄り添うような何かにしたいと思うの。最後は即興でも、あなたのコンパスの濃さだけは一年がかりで勉強しておくわ。

心から言ったことだけれど、踊り手としてこんな風に認めてもらうのってやっぱりどんなに実力のある人でも嬉しいに決まっている。
殺し文句だったかも．．．．計らずも。
でも、この発言でからめとられてしまったのは多分私なのだ。

相手のコンパスの濃さは一年かかっても勉強する。

オーデイションご応募の皆様、私でもこういう覚悟です。
万難を廃してこれに賭ける気持ちがなかったとしたら降りるのは今です。まだ間に合います。
では、中間報告までにて。明日、そちらに向かいます。

●2003年05月10日（土）

劇場選び

　来年の公演の劇場をどこにしようかと思いあぐねている。

　うちのマネージャーは昨日の電話で、「ゴージャスで人気と言ったらオーチャードですよね！！」と言うので驚愕。

本当に「誰も自分の家では尊敬されない」って格言がスペインにはあるけれど、まさに、の発言だ。
．．．と言ってあはは．．．．と笑う自分の生徒が何人いるか賭けてもいいかもしれない。
？？？というぽっけぽけのがダントツで多いに違いない。

バレエエッセイのプリセツカヤの章で私はこのホールだけは死んでもイヤだ、くらいのことは言った。
そして当日、この問題発言の主は私の隣に座っていて、あの階段がまずい、あのカーテンが酷い、この音響は最悪だ、オーケストラボックスは４人しかいないに違いない、と立て続けの容赦ない酷評にうんうん、とうなずいていたのだ。
「いえ、先生、オーケストラは６人はいそうですよ」とまで言った。

それなのにあれからたったの２ヶ月で私にここを推薦する。帰ったら酷いぞ！と脅迫しておこうかしらん。いつも脅迫しているのでもうみんなつらーーーっとしている。

誰か〜もっといいホール推薦してください。

　新宿文化センターは出演者が渋滞に巻き込まれてよく間に合わないって言う。
ゲネプロの後にお散歩に行ってしまうの？という疑問は湧くけれど、あそこは駐車場がない。日本で劇場を選ぶのは本当に周辺にまで気遣いが必要で骨が折れる。

　多分、クラシックフアンには名高いサントリーホールは音響が最高なんだろうと思う。
でも視覚はどうなのかわからない。ぐるりを取り囲まれているみたいなのだ。
それはそれで面白いけれどギタリストのバックに座ってしまったらもう金輪際顔が見れない。

　夜は１０：００まで退去にゆとりがあり、入り口アクセスがエスカレーターでなく直接。
搬入口が頭良く設計されていて、駐車場は有料でもいいからついていること。駅からのアクセスも観客のために良好にして至近。

舞台から最後部の観客席まで２５m以内、階段の傾斜は気持ち強めで前の人が頭でっかちでも腹立たしくない程度な平和設計。
多目的スペース、というのは舞踊向きではないことが多いから絶対にバツ。
可動式舞台も床の音が悪いからお断り。

ないですかねー、いい劇場。是非、ご推薦くださいませ。