すごい暑さだ。

シート・ベルトの留め金に、
うっかり触れて火傷しそうになった。
しばらく走らせてからでないと、
熱しきったハンドルにはまともにさわれない。

運転していても、
なんだか気がそれて集中できない。
危ない、危ない。
道もやたらと空いてる。

アンダルシアの真夏の午後に表に出るのは外人だけだ。
賢い土地ッ子は家から出ないし、
気の利いた人は
避暑地に１ヶ月も２ヶ月も
バケーションに行ってしまう。

外人で、賢くなく、
気の利かない友繁晶子は、
炎天下に好き好んで車を転がして行く。
いづこへ．．．．．．クラブへ．．．．．。
何しに？お稽古しに．．．．。
懲りませんねェ．．．．．
はいー、私はもう、一生これでしょう、きっと。
つける薬がないのです。

　道路のデジタル時計は５：４５と出た後に、４３℃と、出た。
Ｏｈ，Ｉ　ｓｅｅ．．．
４２℃を超えると頭のぼやけ方が違うのだ。
４４℃になると、水泳しかやりたくなくなる。

でも、この微妙な２℃の間ではちゃんと色々やる事に決めてある。
バーレッスンとピルエットは絶対にやる。
飛ぶものはさすがにらやらない。
柔軟と腹筋、背筋。
どろどろになると、非常に気分が爽快になる。
ごほうびに、プールに飛び込む。
あああああぁぁ、いい気持ち！
冷たいゼライスをかきわけて行く心地。
頭もさっきより少しだけ良くなる。
良くなった水中の頭で、振り付けを考える。
夏の振り付けは、これだ！お試しあれ。

　私の書き物にやたらとバレエが出てくるので、
生徒は思いつめてバレエを習いに行こうとする。
この間、生徒の誰かがバレエの見学に行ったら、
ドンキホーテなんかをびしばし踊っている上級クラスに
足を踏み入れてしまって、
うちのめされて（？）帰ってきたという。

あははは。ダメ、ダメ、バレエなんかやらなくてよろしい。
子供の頃に相当やっていて難無くクラスについて行ける人か、
暇で暇で他にやる事も無い人しかやるべきではない。
フラメンコの上体とか、
身のこなしが上手く行かなくて悩んでいるような人には、
私は絶対にバレエ入門は勧めない。
こっちで悩んで、あっちでパニックになって
二重の漬物石の下敷きになってしまうからだ。
フラメンコか、バレエのどちらか一つが割と楽にやれる人が
勉強とか、鍛錬のために行くのが正解だ。
母国語の他に、第二外国語に手を出す感じ。
これなら、ＯＫ。
三人称の一人称の、複数の、あれれー？
なんてべそをかいてる人が、
第二の言語に突入したら、
どちらもぐちゃぐちゃになって
精神の安寧が著しく損なわれてしまうのだ。

　たいていは、フラメンコにプラスになるかな、
という発想だけど、
はっきり言ってこのレベルの時はだめだ。
お金と暇が余っているなら、いい。
それから、もう、フラメンコに行き詰まっていて、
毎日涙が溢れてきてしまうくらいに
追い詰められている場合は、
フラメンコをやめてしまおうという気になる。

そう、やめなさい。
でも、きっとやめれない事にすぐに気がつくから、
その時手遅れにならないように、
体だけは何かで鍛えておく。
自分の事は自分がよく知っている、というのはウソだ。
知っているつもりでいて、
あらゆる場面で信じられないような反応をする自分に驚く方が、
よっぽど多い。
そうなってから、
始めて間に合うことならいいけれど、
舞踊だけは、取り戻しが難しい。
だから、だまされたと思って何かは必ずやって鍛えておく。
空手もいいし、モダン、ジャズでもいい。
だけど舞踊で一番きついのはクラシック・バレエだ。
あれは、まともに取り組むと非常にきつい。
クラシックというだけあって、
古いものは一番よく考案されていて、
一番新しいのだ。
年月の風雪に耐えて
生き残っているだけのことはあるのだ。

私がバレエ･レッスンを欠かさないのは、
野球の選手が、ゴルフを趣味でやるのに似ているかもしれない。
同じ球技だけど、
違うもので何か得るところがあると信じている。
そして、自分の専門でないから、
プレッシャーがかからない息抜きになるし、
ただの遊びではなくて
啓発されることもあるから、
いたずらに時間を浪費するわけではない。
一石二鳥なのだ。

　もう一つ気に入っているのは、
フラメンコとバレエは根本的に相容れないのだ。
形が決まっていなくて
自由に即興していくのが信条のフラメンコに対して、
「絶対にこうでないといけない！！」
というのがクラシック・バレエだ。
中ぐらいにできればいいという事がなくて、
きっちり形にはまらないと、ダメ、というのは、
私にはとても難しくて努力が要る。

けれども、「こうじゃないといけない」ということは、
逆に「こうならいい」ということで、
理屈としては単純ですっきりしているから、
体の鍛錬としてはちょうどいい。

　体の鍛錬としての何か、
となると、ジョギングでもいいし、
ジムに缶詰になって
がんがん鍛えたってよさそうだが、
私はジョギングだけは苦手なのだ。
一人で汗だくになって
「お外」を走っているのなんて恥ずかしくって嫌だ。
スポーティブそうでいて、
根がスポーツマンの根性ではないから、
やっていて
心が高揚するような音楽がかかっているか、
すばらしくドラマチックな展開がないと
頑張れないのだ。

　この間の集中レッスンで、
腕立て伏せをやりなさい。
頑張る秘訣は指輪よ。
みんな色んな色の石を指にはめて一個十回、
というふうに頑張れば、楽よ！
と極秘を公開してあげたのに、
みんなしてあきれた苦笑をもらして
全然参考にしてくれなかったみたいなのだ。
そればかりか、
どうもあの一言で私は株価を暴落させてしまったようだ。
意外！一人も感心してくれないなんて。
目的のためには手段を選ばず、
独創的なアイディアで
自分をだまして訓練を継続させて行く、
というふうに奥義を悟ってほしかったのだけどなぁ．．．．。

どうも、「ただのミーハーだ」、
とその場の２０人ばかりが結論を下した疑いが、
今もって消えない。
うーむ．．．．頭がかたいというか、賢いというべきか．．．．。